東京都庭園美術館本館図面:日本大学生産工学部図書館蔵
東京都庭園美術館本館図面:日本大学生産工学部図書館蔵
2015年1月17日(土)– 4月7日(火) 10:00–18:00
会場:東京都庭園美術館 本館
参加料|無料・「幻想絶佳:アール・デコと古典主義」展(2014年1月17日~4月7日)入場者対象
東京都庭園美術館本館の美しい建物には、戦前、朝香宮鳩彦王とその妻、明治天皇の第八皇女允子内親王(富美宮)と4人のお子様方がお住まいになっていた。だがそこで家族の暮らしが営まれたのは短い期間であり、竣工からほどなく富美宮は急逝、朝香宮や二人の息子達は軍人として戦地へ赴き、次男・正彦王は1944年に南洋で戦死を遂げている。皇族ですら戦地で命を落とさなければならなかった時代を、この建物は静かに見届けてきた。ベランダから一望される庭園の地下には、今も2つの防空壕が眠っている。
戦後、吉田茂内閣総理大臣兼外務大臣の公邸となったこの美しい建物では、敗戦国日本が国際社会に復帰するための、極めて重大な議論や決定がなされていた。吉田茂のもとに集められた政治家や官僚達は、日米安全保障条約や日本の再軍備など、日本の未来、すなわち今日の私たちの社会を決定づけた重大な案件について激論を繰り広げたに違いない。その議論の一部は、国立国会図書館に所蔵された複数の公文書から誰でも知ることができる。
やがてこの美しい館は、戦後の激動の中で、民間に払い下げられることになる。皇籍を離脱した皇族達の土地や邸宅が、西武グループの創始者・堤康次郎の手によっていかに「民主化」されていったかは、猪瀬直樹の著書『ミカドの肖像』に詳しい。この館も例外ではなく、白金プリンス迎賓館として使用されていた時代には民間人の結婚式も行われていたという。
このように日本の近代史の表舞台を生きたこの建物は今、公立の美術館として、「美」の価値を定め、観客と共有するための場として在る。アールデコという西洋の美の規範が完璧に適用され、優美で饒舌な内装や調度品に囲まれたこの空間で創作を行うにあたり、藤井光とそのクリエーションチームは、ここに暮らした皇族の方々の手記や国立国会図書館等に所蔵されている公文書など、膨大な歴史資料のリサーチから出発した。それらは、当時の皇族の方々の暮らしぶりや、国家の未来を背負った高官達の思想を浮かび上がらせるに十分なものだった。家族の食卓ではフランス語が話されていたこと、殿下の居間やベランダにはカナリアが羽ばたいていたこと、活発な議論や証言の横では議事録のタイプライターの音が響いていたこと・・・私たちがこうした歴史資料から知り得る膨大なディテールを、部屋ごとに振り分け、深田晃司がそこで起こったかも知れないフィクションとして長いシナリオを執筆した。藤井がそのシナリオを再構成する過程で大幅な抽象化を行い、鈴木治行がそれらを音響による統一された体験へと昇華させ、この作品が完成した。
記憶は常にそこにある。複数の層として織り重なるように、常にそこにあり続ける。「記憶の器」として建築を捉えたとき、私たちはいかに、そこに閉じ込められた個人の声に耳を傾け、それらに誠実であることができるのだろうか。記憶を召還し、解凍し、「いま、ここ」に接続する手続きとして、芸術は、どんな戦略をとり得るのか。「美」も一つの制度であるという当たり前の制限の中で、何を記述し/せず、繰り返されるかも知れない大文字の「歴史」と向き合い、未来に警鐘と問いを投げかけることができるのだろうか。
いま、あなたが「観客」として体験したこの作品は、そのようなことを「美」の制度の外側に問いかけるプロセスの中に、まだ在る。
鑑賞方法(事前にご確認下さい)
スマートフォンをお持ちのお客様
スマートフォン、高音質ヘッドフォンをお持ちでないお客様
【演出・テキスト】藤井光[ 美術家・映画監督]
【テキスト】深田晃司[ 映画監督]
【音楽】鈴木治行[ 作曲家]
【録音】藤口諒太[レコーディング・エンジニア]
【アプリ開発】小林和貴[デザイナー]
【宣伝美術】大岡寛典事務所
【プロデュース】相馬千秋[アートプロデューサー]
【声の出演】足立誠、井上みなみ、川隅奈保子、堀夏子
主催|公益財団法人東京都歴史文化財団東京都庭園美術館
企画・制作|特定非営利活動法人 芸術公社
協力|WOOX INNOVATIONS
お問合せ先
東京都庭園美術館 事業企画係 「イグニションボックス」担当
Tel 03-3443-0201 Fax 03-3443-3228
E-mail:info@teien-art-museum.ne.jp