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シンポジウム「歴史的建造物をまもる・つなぐ・いかす―3D Digital Archive Project」におけるグラフィックレコーディング

活動報告ブログ

「グラフィックレコーディング」と聞いて、どのようなイメージが湧くでしょうか。


本ブログでは、2025年7月21日(月・祝)に開催した展覧会関連シンポジウム「歴史的建造物をまもる・つなぐ・いかす―3D Digital Archive Project」において実施した、グラフィックレコーディングの様子をご報告します。


はじめに

毎年恒例の建物公開展。今回の建物公開展では、新館ギャラリー1に設けたハンズオン展示コーナー「さわるは、みること」を通して、歴史的建造物である「旧朝香宮邸」(東京都庭園美術館 本館)の保存と活用における新たな可能性を探りました。

ハンズオン展示コーナー「さわるは、みること」のタイトル
ハンズオン展示コーナー「さわるは、みること」
香水塔照明部の触察模型と魚のラジエーターカバーの触察模型
手前:香水塔照明部の触察模型、奥:魚のラジエーターカバーの触察模型
「建物公開2025 時を紡ぐ館」のポスター
展覧会ポスター

本館は、国の重要文化財に指定されています。そのため、窓や扉、床に加え、壁画や照明など、建物を構成するすべてのものが、保存・修復の対象となっています。

建具の細部に至るまで、アール・デコの特徴をとらえた意匠が施され、幾何学的な模様や曲線と直線の交差する様子は、みているだけで心が躍るような空間といえます。

本館 妃殿下居間バルコニータイル
本館 妃殿下居間バルコニータイル
本館 殿下寝室ラジエーターカバー
本館 殿下寝室ラジエーターカバー
本館 姫宮寝室前階段の踊り場
本館 姫宮寝室前階段の踊り場

このように本展では、本館を彩る建築装飾の魅力を存分に伝えるため、さわって楽しむ触察模型や収蔵品の3D視聴コンテンツ、そして香水塔のAR体験など、様々なインタラクティブコーナーを設け、歴史的建造物を守りながら活用していくことを実践しました。

旧朝香宮邸のような歴史的建造物の幅広い活用について、東京都庭園美術館に限らず、当財団全体を通して実践してきた取り組みを紹介しながら、多様な文化財活用の未来について一緒に考えるシンポジウムとして、「歴史的建造物をまもる・つなぐ・いかす―3D Digital Archive Project」を開催しました。

シンポジウムの概要について

トークセッション①「建造物を使いながら守る」の様子
セッション①「建造物を使いながら守る」の様子
セッション②「建造物をつなぐ―建築×テクノロジー」の様子
セッション②「建造物をつなぐ―建築×テクノロジー」の様子

本シンポジウムでは、情報保障として、手話通訳、文字表示支援、グラフィックレコーディング、また補聴器をお使いの方が、マイクの音声を直接聞くことができるヒアリングループを導入していましたが、それらに加えて、「グラフィックレコーディング」も導入しました。

手話通訳、文字表示支援、ヒアリングループのピクトグラム画像

グラフィックレコーディングとは

グラフィックレコーディングとは、リアルタイムで行われる議論や会話を、イラストや文字を使って可視化する手法のことを指します。

例えば、会議などをする際に、議事録をとることがありますが、それは後から参照するための記録として役立ちます。グラフィックレコーディングは、いわば議事録のようなものですが、リアルタイムにアーカイブ化されていく様子を、一緒に楽しみながらみることができるコンテンツです。

【財団内での実践例】

東京芸術祭2020「どうやって出会う!」トーク#1『2030年以降、東京だからこそ可能な場とは?』
アーツカウンシル東京 第1回「コロナ禍におけるオンラインの活動継続」(前編):みんなのダンスフィールド


議論の交通整理

本シンポジウムでは、2名の登壇者ごとに3つのセッションに加え、1名による事例紹介を行いました。そのため、議論の道筋や、1つ前のセッションではどのような言及をしていたかなどを確認したい場合、このグラフィックレコーディングを参照することで、タイムラグなく、思考を整理することができました。

さらに、文字だけではなく、図やイラストなども用いて視覚的に記録されていることで、瞬時に議論を理解しやすくなるといえます。

香水塔の照明部模型について解説している様子
香水塔の照明部模型について解説している様子
実際にグラフィックレコーディングされた情報
実際にグラフィックレコーディングされた情報(制作:清水淳子)

今回グラフィックレコーディングをお願いしたのは、視覚言語研究者でインタラクションデザイナーの清水淳子さん。多岐にわたる議論の場で、即座に言葉を可視化させるグラフィックレコーダ―として、幅広くご活躍されています。

清水氏によるグラフィックレコーディングの様子
清水さんの制作風景
右奥のモニターに投影しながら制作している様子

参加者の声

本シンポジウムを通して、当館では初めてグラフィックレコーディングを実施しました。参加者の皆さんからは「自分は聴者ですが、手話の勉強中のため、大変参考になりました。また、グラフィックレコーディングは初めて聞き、拝見したので、大変興味深く、貴重な機会に感謝申し上げます」という声や、「リアルタイムに見ることができるとストーリーの理解が深まると感じた」という声をいただきました。


さいごに

これまでは、リアルタイムでシンポジウムや講演会に参加できない場合は、アーカイブとして、実施後に議事録を参照したり、記録映像を視聴していました。

今回実践した「グラフィックレコーディング」という手法も、議論をわかりやすく可視化し記録できるアーカイブコンテンツとして、機能するものです。

さらに、現地参加の方々にとっても、議論の交通整理をしてくれるツールとして、理解度も高まり、より内容を鮮明にさせてくれるものといえます。

本シンポジウムで制作されたレコーディング内容はこちらからご覧いただけます。

当日のグラフィックレコーディング内容(動画10秒)

シンポジウム「歴史的建造物をまもる・つなぐ・いかす―3D Digital Archive Project」

日時2025年7月21日(月・祝日)14:00-16:00
場所東京都庭園美術館 新館 ギャラリー2
対象どなたでも
登壇者・山田修(奈良県立大学|地域創造研究センター長・教授)
・瀬賀未久(株式会社gluon|ディレクター)
・早川典子(東京都庭園美術館|学芸員)
・斉藤音夢(東京都庭園美術館|学芸員)
・持主実(江戸東京たてもの園|専門技術員)
・生田真菜(江戸東京たてもの園|学芸員)
・小林愛恵(アーツカウンシル東京|学芸員)
参加人数49名
共催東京都庭園美術館、江戸東京たてもの園

執筆:斉藤音夢(東京都庭園美術館 学芸員)