アート・コミュニケータによる鑑賞ツアー(「戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見」展)
東京都庭園美術館では、展覧会ごとに、障害のある方も赤ちゃん連れの方もだれもが気兼ねなく来館できるプログラム「フラットデー」を開催しており、その中でアート・コミュニケータによる鑑賞ツアーを実施しています。
本ブログでは、2025年4月23日(水)と30日(水)のフラットデーに行われた鑑賞ツアーの様子をご紹介します。
2025年度東京都庭園美術館インターンシップ生による記事です。
東京都庭園美術館の本館は、1933年に朝香宮家の邸宅として竣工しました。朝香宮家の白金台での生活は、戦後の日本社会の動向に伴い終わりを迎え、1947年には吉田茂の外務大臣・首相公邸、それから8年後には白金迎賓館として使用されました。そして1983年、東京都庭園美術館として開館し、今に至っています。
こうした歴史的な背景を持つ本館と付帯建造物は、2015年に国の重要文化財に指定されました。それゆえに、「文化財の保存」に関する活動は当館において重要な取り組みとして位置づけられており、本館におけるバリアフリーを含めた環境整備の実施には制約があります。
そこで、アクセシビリティの向上を目指した「アクセスプログラム」の一環として、入場制限を行うことで「ゆとりある環境」を作る “フラットデー”を実施しています。 “フラットデー”には“ゆったり鑑賞日”と“ベビーアワー”の2種類があり、各展覧会に1回ずつ実施されています。また、前者では“ゆったりツアー”、後者では“ベビーといっしょにミュージアムツアー”という鑑賞ツアーが開催されています。これは、NPO法人アート・コミュニケーション推進機構の「アート・コミュニケータ東京」に所属するアート・コミュニケータがツアーの参加者に付き添い、お話をしながらご鑑賞いただく内容のプログラムです。
本ブログでは、「戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見」展の“フラットデー”における鑑賞ツアー“ゆったりツアー”と“ベビーといっしょにミュージアムツアー”の様子をご紹介いたします。

ゆったりツアー
雨の香りと水の滴りが美術館を彩る4月23日の水曜日は、 “ゆったり鑑賞日”でした。それに伴い、“ゆったりツアー”が行われました。
「戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見」展では、第二次世界大戦後に東西に分断されたドイツのうち、資本主義・自由主義体制の西ドイツのグラフィックデザインに焦点が当てられています。商品競争と共に発展したポスター、書籍、切手などが並ぶ本展覧会の“ゆったりツアー”では、作品から読み取れる色や形の特徴を言葉にされている参加者とアート・コミュニケータの姿が見られました。


また、展示されている作品のみならず、本館の照明・壁紙・家具などのデザインから感じたこと、気付いたこと、疑問に思ったことなどを自由に共有し合い、鑑賞する対象への解釈を深めている様子が印象的でした。

このツアーは、最長90分です。時間制限はございますが、1組に1人のアート・コミュニケータが付き添うため、ご自身のペースでご鑑賞いただけます。
また、本館1階ウェルカムルーム、2階広間、新館ロビーには椅子が設置されており、適宜休憩を取りながらお楽しみいただけます。

ベビーといっしょにミュージアムツアー
晩春の陽気が漂う4月30日の水曜日、開館から15時まで“ベビーアワー”が開催されました。当日の館内は、子どもたちの声が響き、普段とは異なる表情を見せていました。
“ベビーアワー”の時間帯は、赤ちゃんを連れたご家族の皆様にも心置きなくご鑑賞いただくことを目的としているため、普段本館にてご利用いただけないベビーカーを押したまま、建物に入ることができます。

また、“ベビーアワー”の開催に伴い、各回最長60分の“ベビーといっしょにミュージアムツアー”が3回行われました。“ゆったりツアー”と同様に、1家族に1人のアート・コミュニケータが付き添うため、ご家族の状況に合わせてご鑑賞いただけます。また、プログラム全体の様子を見守るアート・コミュニケータもツアーをサポートしています。

本ツアーでは、緊張したお子さんを和やかにあやしながら鑑賞する様子、眠るお子さんの様子を窺いながらアート・コミュニケータとの会話を楽しむ保護者の方など、様々なスタイルでツアーの時間を過ごされている様子が見られました。


また、本館1階のウェルカムルームでは、「さわる小さな庭園美術館」の建物積み木に夢中になるお子さんや、気になる作品に対して声や体で自由に表現するお子さんの姿など、自身の興味の対象に忠実な様子が印象的でした。
本展覧会は終了しましたが、今後の展覧会においても“ゆったりツアー”や“ベビーといっしょにミュージアムツアー”が開催される予定です。ご興味のある方は、当館ウェブサイトよりぜひお申し込みください。
インターンシップ生として本プログラムの運営に携わる機会をいただき、重要文化財を保存する活動が重視される中で、邸宅として設計された私的な建物を公共性のある美術館として活用することの難しさを実感しました。また、不変的な要素を持つ建物に着目するだけでなく、利用する方のニーズに合わせて環境をデザインする方法を学び、その活動への関心が深まりました。今後も、鑑賞の場の在り方について考え、美術館におけるアクセシビリティについて学びを深めていきたいと思います。
参考文献
- アート・コミュニケータ東京「アート・コミュニケータ東京とは」アート・コミュニケータ東京ウェブサイト、https://art-c-tokyo.net/about/、閲覧日2025年7月26日。
- 大谷郁「「だれもが気兼ねなく来館できる美術館」を目指して―アート・コミュニケータとつくる東京都庭園美術館のアクセスプログラムの実践報告」『東京都庭園美術館 紀要 2024』東京都庭園美術館、2025年、pp.11-25。
- 東京都庭園美術館『旧朝香宮邸物語 東京都庭園美術館はどこから来たのか』アートダイバー、2018年。
- 西宮市大谷記念美術館ほか『戦後西ドイツのグラフィックデザイン モダニズム再発見』展覧会図録、キュレイターズ、2024年。
執筆:東京都庭園美術館インターン 石原史奈