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博覧会パヴィリオンのひとつであった「フランス大使館」は前述のように、実際に機能する大使館ではなく、フランス大使の住居をコンセプトにした総合的な室内展示テーマのひとつでした。この「大使館」が置かれた技能館の設計は、シャルル・プリュメによって手掛けられましたが、その出展計画は、装飾美術家協会によって進められたものでした。協会の副会長であり、朝香宮邸とも深い関わりのあるアンリ・ラパンが、フランス大使館の一例を計画することを提案し、これが技能館の両翼に実現されたのです。
この技能館はアンヴァリッド側の中心に設置され、アンヴァリッドの主軸に対して軸線対称となるように配置されました。さらに館の中心には、心臓部(Coeur)と捉えられた庭園が設けられていましたが、これらは、技能館が装飾美術の知的中心を司る展示館として象徴的な意味を持つものでした。そして本技能館の東翼には「フランス大使館」の大サロンやレセプションホールといった公的な空間が、また西翼には大使、大使夫人や子息用の部屋、浴室、運動室、音楽室といったプライヴェートな空間が、東西を公私のスペースとして均等に分けて構成されました。
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「フランス大使館」の24の各部屋には、それぞれの装飾家たちによって意匠の凝らされた空間が生み出されました。なかでもプライヴェートルームである書斎や喫煙室は、アール・デコ様式の魅力をあますところなく伝えているといえるでしょう。
ピエール・シャローによって手掛けられた大使の書斎は、柱や書棚や家具の重厚感ある直線と、天井や絨毯のデザインの円形とがダイナミックに融合し、旧朝香宮邸の書斎を髣髴とさせる要素が感じられるものです。またジャン・デュナンによる喫煙室は、壁面から家具調度品に至るまで漆塗りが施され、天井部には階段を上下逆にあしらったような複数の段が設けられ、シックで独特の雰囲気をもつ空間として
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フランス大使館には他にも、モーリス・デュフレンヌによる客間、ポール・フォロによる控えの間、アンリ・ラパンによる食堂、アンドレ・グルーによる大使夫人の部屋などがありました。壁にマリー・ローランサンの絵が飾られた大使夫人の部屋は、「フランス大使館」の中でも最もフランス的な伝統を守りながら、現代的な要素も取り込んだ室内構成とされ、「アール・デコ」の一つの典型的な傾向を代表するものとして注目されました。
このように、様々な目的を持つ「フランス大使館」の各部屋部屋には、アール・デコの創意を尽くし、先進的なデザインが随所に生かされた室内空間が広がっていたのでした。(神保)