宇治山哲平展
  2006年2月4日-4月9日

 本展は日本近代美術史における抽象絵画のパイオニア・宇治山哲平 ( 1910−86)の没後20年を節目に開催する本格的な回顧展です。1976年に開催された個展以来、首都圏では実に30年ぶりの回顧展となります。
三隈川を始めとする豊かな自然と、幽玄な底霧の町として名高い大分県の日田市に生まれた宇治山哲平は、幼少時より画家になることを熱望し、独学で木版画の技法を修得、 20歳の頃から創作活動に打ち込むようになりました。 しかし生活のため就職を余儀なくされていた宇治山は、漆器のデザイナー、図画教員、新聞社勤務等の職を経るなか、評論家の福島繁太郎の知遇を得て、国展を主な発表の場として活動を行います。
  戦後になると抽象画の可能性を果敢に模索し、絵具に水晶の粉末を練り込んだ精緻な絵肌と、幾何学的なフォルムを駆使して絵画の在り方を探求しました。少年の日に見たアッシリアの浮彫により画家への道を決定づけられ、ペルセポリス遺跡やエジプト美術の魅力を偏愛した宇治山は、藤原隆信 (※)のほか、雪舟や俵屋宗達の仕事を、日本絵画における最高の規範だと書き残しています。 画家としての宇治山の願いは、時代や洋の東西を超えた「煌めくような美の世界」を自らの作品によって打ち立てることでした。
  画家の 50年に及ぶ活動を振り返る本展は、遺言に際して仕事場の公開を望んだ彼の言葉を手掛かりに、美術館の空間をアトリエに見立て、「華麗にして森厳、端正にして壮大なる」美の行方を追い続けた宇治山芸術の軌跡を紹介しようとするものです。
(※)京都・神護寺に伝わる、国宝《伝源頼朝像》の作者とされる。