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メインタイトル:邸宅美術館のアートな空間

第7回 東京ステーションギャラリー

「復原」された東京駅の全景。東京ステーションギャラリーは駅舎の北側にある。

「復原」された東京駅の全景。東京ステーションギャラリーは駅舎の北側にある。

 東京ステーションギャラリーは、1988年東京駅丸の内駅舎の2階に誕生しました。以後2006年に駅舎の「復原」工事着手までの18年間で105本の展覧会を開催し、人と文化をつなぐ場として多くの人々に親しまれてきました。そして、2012年の秋に工事の完成に伴い、装いも新たに活動が再開されました。
 今回は、リニューアルオープンした東京ステーションギャラリーの見どころについてお聞きするとともに、今後の展望について、学芸課長の田中晴子さん、ミュージアムショップTRAINIART(トレニアート)の津江龍也さんにお話を伺いました。


「復元」ではなく「復原」に込められた思い


 「今回の丸の内駅舎の工事は、失われた建物を全く同じ姿に作り直す『復元』ではなく、既存の建物を土台にしながら戦争によって失われた3階部分を復元、創建当時の姿に戻そうというプロジェクトでした。この先100年間使い続けられる建物を目指して、創建当時のまま残る1-2階を中心とした建物を保存、補強しながら、地下を新設して免震装置を作りました。今回の工事では原型(オリジナル)を基本として創建当時の姿に戻したのだから復元ではない。そういった関係者一同の思いを込めて、『復原』とあえて表記しているのです。」

 1914(大正3)年、建築家の辰野金吾により設計された東京駅は、来年で開業から100年を迎えます。過去の100年を受け継ぎながら、これからの100年を目指す東京駅駅舎の「復原」工事には関係者のそんな思いが込められていたんですね。そして、東京ステーションギャラリーもその思いを引き継いでいるといえます。


「煉瓦の美術館」


2階展示室内。煉瓦の壁が温かみのある空間を作りだしている。

2階展示室内。煉瓦の壁が温かみのある空間を作りだしている。

 東京駅は、鉄骨煉瓦造の重厚な建物で、大変堅牢に造られています。実際、1923(大正12)年に関東大震災が発生したときも、周辺の建物が壊滅的な打撃を受けるなか、東京駅だけはほとんど被害を受けませんでした。というのも、当時としては珍しく、駅舎には約3100トンもの大量の鉄骨と、建物を支えるために700万個以上の「煉瓦」が使われていたためです。そして、この「煉瓦」は東京ステーションギャラリーの館内にもそのまま使われています。


 「東京ステーションギャラリーというと、『煉瓦』をイメージされる方が多いと思いますが、実は、1988年に美術館が作られた当初の計画では、レンガではなく白い壁で展示室を作る予定だったんです。初代館長の木下東京駅長(当時)が、漆喰をはがして煉瓦だけになった壁を見て、味があるからこれを美術館の壁にしようと提案したのです。その結果、煉瓦の壁が残ることになったのです。ですから、今回の工事でも、可能な限り煉瓦の壁を残したい、という強い思いが私たちにもありました。作品を展示することを考えると、なかなか難しい問題も出てくるのですが、それがステーションギャラリーの個性になり、この場所ならではの展示が可能になるなら、是非とも煉瓦は必要だと。」


3階展示室内。こちらは白い壁の展示室。

3階展示室内。こちらは白い壁の展示室。

 新しい展示室は、3階から2階へと降りてくる順路になっています。3階は白い壁面ですが、階段と2階の展示室は、ほぼ煉瓦の壁で構成されており、ところどころ創建当時の鉄骨も見ることができます。「煉瓦」はまさにステーションギャラリーの象徴なんですね。そして、そんな空間を生かすために館内には様々な工夫が施されています。


建物の歴史を残しながら少しでも楽しい空間にしたい


階段。天井から吊り下げられた照明や丸いステンドグラスは、駅舎中央にあった旧東京ステーションギャラリーで使われていた。

階段。天井から吊り下げられた照明や丸いステンドグラスは、駅舎中央にあった旧東京ステーションギャラリーで使われていた。

 たとえば、作品と鑑賞者との距離を確保するパーテーションの紐も、3階は黒、2階は白にと色を分けて目立たせています。また逆に、展示の照明器具も3階は白、2階は黒とするなど、壁の色と馴染むように工夫されています。
 そして、そんな様々な工夫の中でも見所の一つが階段です。


 「実は、東京ステーションギャラリー開館時に備えられた照明や丸いステンドグラスなどを、今回の工事で階段部分に移築したんです。ですからもしかして休館前の美術館を憶えていらっしゃる方には懐かしいかもしれませんね。建物の歴史を様々な場所で発見していただいて、少しでも楽しんでいただけたらうれしいです。」


 この階段の照明にはチェーンが取り付けられており、電球交換の際には、リモコンを使いチェーンを伸ばすことで、高所台に登ることなく作業を終了できるそうです!メンテナンスのことを考えた設計ですね。


 ここまでは建物について様々なことをお聞きしてきましたが、では展覧会を企画する際には、どのようなことを心がけていらっしゃるのでしょうか。


「発信」の地としての役割を果たしていきたい


展示室を出ると復原された東京駅のドーム部分が見える。東京駅の改札は目の前。

展示室を出ると東京駅の改札は目の前。

 「やはり東京駅ということもあって、その地の利を最大限に生かしていきたいですね。たとえば、当館の再開記念展で現代美術のグループ展を行いましたが、それには東京の中心から「今」のアートを身近にして発信したいという思いを込めました。ここからは、画廊の多い銀座、東京国立近代美術館のある竹橋も近いですし、東京都現代美術館のある木場にもバス1本で行けます。ここをひとつの「入口」あるいは「発信地」とし、ここから様々な人や場所へと、文化をつなげていければいいなぁ、という気持ちが我々にはあります。」


 駅を単なる通過点ではなく、人と文化をつなげる「交通(=交流)」の場として捉え、それを自覚的にプロデュースすることで、過去・現在・未来を、また場所と場所を繋げていきたいという強い思いが伝わってきます。


様々なブランドとのコラボレーションを通して、鉄道の魅力を伝える商品を開発しています


 東京ステーションギャラリーの「ミュージアムショップTRAINIART」にも注目です。ここでは、「鉄道をもっと楽しむ」をコンセプトに、ステーションギャラリーならではの「東京駅」や「鉄道」を意識したユニークなグッズが扱われています。


 「一番人気は、文房具ブランドの「水縞」と老舗ノートメーカーの「ツバメノート」が、TRAINIARTとコラボした東京駅メモです。東京駅の表紙と、抜群の書き心地、この二つが人気の理由ではないでしょうか。472円と手頃なお値段ですので、お土産用にまとめて購入されるお客様もいらっしゃいます。他にも老舗和菓子店の「榮太楼」とコラボした飴、手ぬぐいブランドの「にじゆら」とコラボした手ぬぐいなど、様々なブランドとのコラボレーションを通して、東京駅や鉄道の魅力を伝える商品を開発しています。」

この夏一押し商品「にじゆら」とコラボした手ぬぐい。写真は夜の東京駅丸の内駅舎をイメージしたライトアップバーション。

この夏一押し商品「にじゆら」とコラボした手ぬぐい。
写真は夜の東京駅丸の内駅舎をイメージしたライトアップバーション。


 「にじゆら」とコラボレーションした手ぬぐいは、横長の東京駅の形とぴったりです。東京駅丸の内駅舎をイメージした手ぬぐいは、別バージョンもあります。また、ミュージアムショップTRAINIARTには、鉄道や東京駅をテーマにしたグッズの他に、東京ステーションギャラリーのシンボル、「煉瓦」をモチーフにしたグッズもたくさんあります。展覧会を鑑賞したあと、ショップに立ち寄るとついつい長居してしまいます。


 来年で開業100年を迎える東京駅は、その「復原」を通じて、過去と現在をつなぎ、これからの100年を迎える建物として新たな一歩を踏み出しました。そして、その中にある東京ステーションギャラリーも、煉瓦の壁を生かした展示空間の中で、この場所でしかできない展覧会を、今後も「発信」し続けていくのではないでしょうか。


 田中さん、津江さん、ありがとうございました。(2013年7月1日、取材:浜崎・田中)


  • 東京ステーションギャラリー
  • 住所:〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-9-1
  • Tel. 03-3212-2485
  • www.ejrcf.or.jp/gallery/
  • 大野麥風展
  • 2013年7月27日(土)~9月23日(月・祝)

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