東京都庭園美術館


みんなでつくる『たてもの文様帖』 東京都庭園美術館 × 下中菜穂

下中菜穂さんインタビュー

 『たてもの文様帖』のアイディアは、造形作家・もんきり研究家の下中菜穂(しもなかなぼ)さんの活動から生まれてきました。そして「たてもの文様」の宝庫である東京都庭園美術館と下中さんが一緒に、みなさんの力を集めて『たてもの文様帖』を作ることになりました。
 その第一歩としてワークショップ「切り紙でつくる『たてもの文様帖』を実施。講師はもちろん下中さんです。
 このワークショップについて、そして「みんなでつくる『たてもの文様帖』」プロジェクト全体を通して、どんなことを考えているのか、下中さんにお話をしてもらいました。


江戸時代の紋帖

江戸時代の紋帖

 下中さんがもんきり研究をはじめたきっかけは、「紋帖(もんちょう)」と呼ばれる本との出会い。生活の中にある「文様」や「紋」が、動物や植物、気象や天体など、あらゆるものを表現しており、それが昔から連綿と受け継がれてきたことに感銘を受けたそうです。以来、文献をあたったりフィールドワークをしたりと調査をしながら、参加者が実際に体験するワークショップを通じて、「文様」の面白さを広めています。


「読んだり、見たりして分かることだけではなく、自分の手を動かして、
感じて、発見することを大切にしています。

 ラスコーの洞窟画がどう書かれたかを実際にやってみる、というような実験考古学と呼ばれる学問があるようなのですが、もしかしたら私のやっていることも、それに似ているのではないかと思います。「実験文化人類学?」とでもいおうか、「大人の自由研究」といおうか・・・。例えば「紋切(もんきり)」は、紙を折って、切って、開くことで、一つの文様が自分の手の中から生まれます。そうやって自分の手を動かして、過去の人たちと同じ体験をすることで、その思いに共感できるような気がします。文様について調査し、考え、実際にやってみると、過去の人たちのことがすごく身近に実感でき、その道の先に今の私たちがいるような気がするんです。」

さて、そんな下中さんが今回取り組んでいるのが、「たてもの文様」です。


「例えば、道を歩いていて、いつもは通り過ぎてしまうようなブロック塀、門扉、窓などにささやかな文様を発見することがありますよね。そんな身の回りにある文様も、切り紙にしたら面白いんじゃないかなと思っていたんです。そこにちょうどタイミングよく、庭園美術館からお話をいただいたんですよ。」

青海波という波の文様?それとも山?

青海波という波の文様?それとも山?


確かに、普段何気なく目にしているガラス窓や瓦などにも、よく見ると文様のついたものがありますね。なぜこの文様がここに使われているかを考えてみると、建築の楽しみ方が広がりますね。


「そう、文様という視点から見ると、突然すべてが関わりのあるもののように感じられるんですね。それがワークショップを通じて伝わったら、素晴らしいと思います。

今日は、文様にも空間にも力がある旧岩崎邸という洋館でワークショップを行いましたが、やはり普通の会議室でやるのとは説得力が全然違います。参加者のみなさんに言葉だけでは伝えられないこと、過去の人たちの地続きに私たちがいる、という感覚をきちんと伝えられたような気がしました。」

下中さんが手にしているのはブロック塀の文様の切り紙。参加者のみなさんもびっくりして笑顔です。

下中さんが手にしているのはブロック塀の文様の切り紙。参加者のみなさんもびっくりして笑顔です。


『たてもの文様帖』は、過去の人たちとつながる発見なのですね。さて、ワークショップに参加しなくても、『たてもの文様帖』づくりには参加できるんですよね。


「そう。だって文様は日常の何気ないところにたくさんありますから、ぜひみなさんの発見を教えて欲しいです。ブロック塀に文様を発見したように、既成概念にとらわれずに建物を見ると、これまでにない発見があるかもしれません。
 発見した文様について調べてみるのもおススメです。発見と調査と切り紙をセットでやってみることで、身近な建物の新たな魅力を再発見できるかもしれませんよ。」

「みんなでつくる『たてもの文様帖』」では、そんなみなさんの発見や気づきを少しでも多くの方々とシェアしていきたいと考えています。ぜひ参加してください!


(取材日:2013年2月24日/取材者:浜崎・八巻)


下中菜穂(しもなか なぼ) 下中菜穂(しもなか なぼ)

造形作家。もんきり研究家。江戸時代の『紋切り遊び』を通して 「かたち」に込められた祖先の暮しぶりや精神を紹介。「文様を暮らしの中で楽しむ」文化、手仕事を現代に蘇らせるべく、出版やワークショップ、展覧会などで活動。中国の農村、東北の「きりこ」などもフィールドワークし、世界や日本の今も生きている切り紙の文化を研究。大人の自由研究のススメを提唱。

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