幻のロシア絵本1920-30年代
 2004年7月3日(土)−9月5日(日)

 1920−30年代のソヴィエト(ロシア)では、新しい国づくりの理想に燃えた画家や詩人たちが絵本の制作を手掛け、未来を担う子どもたちへ大きな夢を託していました。彼らの手による「新しい絵本」は、ユーモアにあふれたテクストと大胆かつ洗練された造形性により、パリやロンドンといった諸外国でも注目の的となり、20世紀絵本の原点と目される存在となりました。
  当時は日本でもロシアの絵本に熱い視線を注いだ人がいます。一人は後に前衛美術集団「具体美術協会」を率いることになる吉原治良(よしはら・じろう/1905-72)です。彼はロシア絵本に触発され、1932(昭和7)年に魚をモティーフにした文字のない絵本『スイゾクカン』を制作しました。また画家の柳瀬正夢(やなせ・まさむ/1900-45)やデザイナーの原弘(はら・ひろむ/1903-86)といった先端的な意識を持ったつくり手が、ロシア絵本を手元に置き、自らの仕事の糧としました。
 国家統制のため、ロシア国内における絵本の隆盛はわずか10年ほどで終焉を迎え、その存在は歴史の闇に埋もれていきました。本展は吉原治良の旧蔵品87冊を中心に、日本に現存する約250冊を一堂に集め、小さな紙の宝石ともいうべき「幻のロシア絵本」に、新たな光を投げ掛ける本邦初の試みです (会期中、出品作品のなかから選んだロシア絵本10冊を忠実に再現した「復刻版」の販売を行います)。

《サーカス》表紙 1925年